太釈さんの法話なブログ あわてられん その4

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高野山の布教師 太釈さんがミニ法話を綴ります

あわてられん その4

今度は「してやったのに、は間違い」という話を紹介します。

学校の先生の長男が高校1年生の時です。
夏休みの補習授業を終え、炎天下の帰り道に急に天気が変わって雨が降り出しました。
「あと少しで家に着くから」と、雨宿りもせず家路を急ぎました。
懸命にペダルをこぎ、信号待ちをしていると一台のエンストした車が目に入りました。

どうしようかと迷いましたが、自転車をおいて運転手に声をかけました。
「大丈夫ですか?」
運転手は中年のおばさんで、どうしたものかと、途方に暮れていました。
「押してあげるよ」
と、声をかけ、一生懸命に車を押してみますが、高校生一人の力ではビクともしません。

運転席を見るとマニュアル車だったので、高校生は運転手のおばさんに指示を出しました。
「ギアを入れて、ハイッと言ったらクラッチを放してくださいね」
高校生がありったけの力で車を押すと、少し動き出しました。タイミングを逃さず「ハイッ」と声をかけました。

すると、エンジン音が響き車は走り出しました。
「よかった」と思ったときには、車はすでに行ってしまっていました。
一言の礼もなく走り去っていった車の後に、ずぶ濡れになった高校生が一人ぽつりと取り残されました。

「せっかく、してやったのに」
腹を立てながら、ずぶ濡れのまま家に帰った高校生は腹立たしい思いを教師の父にぶつけました。

高校生の息子の話を黙って聞いていた父親は、
「それは良いことをした。私が運転手のおばさんに代わって礼を言うよ。その人も、きっと車を止めて礼を言いたかったに違いない。でも、またエンストしたら困るので、やむを得ず走って行ったんだよ」

「してやったのに」ではなく「あわてられん」という意味があったのだと父に諭されて、なるほどと思ったのでした。

つづく
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