太釈さんの法話なブログ 宝福寺ものがたり ヘビ退治編 その19

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高野山の布教師 太釈さんがミニ法話を綴ります

宝福寺ものがたり ヘビ退治編 その19

山の入り口にたどり着いた元意上人は、見張り役に声をかけました。
「ごくろうさん。ええ天気じゃのう。」
見張り役がひるんだ隙に、手に持つ錫杖を一振りしました。見張り役は、音もなくどう、と倒れました。それに気付いた他の見張り役も元意上人に襲いかかりますが、足許を取られたように地面に転がりました。
「ごくろうさん。」
何事もなかったかのように、元意上人は山に入っていきました。

昼間から酒を飲んでくだを巻いている者が、大声で何か言い合っていました。
「おい、今日は奥に入ってはいかんと言われたが、大将は何をやっているのかのう。」
「さあな、わしらのペラペラな頭では、何にもわからんわ。」
「ヘビとカラス、イノシシを集めてこいなんぞ、気味が悪いの。」
「大将の言いつけだ。逆らってはいかん。そうそう、このまえ山菜採りに舞い込んだ夫婦はどうなった?」
「さあな、とっ捕まえて大将の前に引きずり出したら『もう帰っていい』と言われたぞ。その後は、姿を見てないなあ。」
「もしかしたら、ヘビに飲まれたのかもよ。」
「あの、でかい奴にか。」
「そう、人でもイノシシでも、何でも飲みそうな奴がとぐろを巻いているからな。」
「おお、こわいこわい。大将に逆らってヘビのえさにされたらかなわんからな。」

「急がねば。」
元意上人は、酒に酔った男たちを横目に音もなく枝から枝へと飛び移りました。下から見れば猿がいたようにしか見えなかったでしょう。

たどり着いた山の奥深くから、異様な匂いが立ちこめてきました。血の臭いでもない、動物の死体が腐ったような臭い。
やがて、臭いの主が分かりました。
累々と積み上げられた動物の死体。それも首と胴が離れたものばかり。鮮やかな切り口に、白龍の手であることが明白でした。
「怒りを増幅させているのか。」
元意は唇をかみました。

さらに奧からねっとりとした呻り声。
「うぉぉぉぉぉ、あぉぉぉぉぉぉ。」
そこには、巨大なヘビと対峙している白龍がいました。最後の決戦の最中だったのです。

「白龍、やめろ!」
元意上人の声にひるんだ白龍の一瞬の隙を突いてヘビが襲いかかってきました。ヘビの牙が、危うく白龍の体をかすめました。

「ふん、元意か。少しばかり遅かったな。もう誰にも止められぬ。」
勝ち誇ったように言い放った白龍の顔は、すでに人間ではありませんでした。執拗に獲物を追いかけるヘビの目、両の歯はヤスリで研いだように鋭く、体は骨と皮までやせ細り、すさまじいほどの妖気を漂わせていました。

「白龍よ、目を覚ませ。法の力をこのように使ってはならぬ。」
け、け、け、とのどの奥を鳴らした白龍は、
「よく見ておけ。おれは生まれ変わるのだ。」

武器を投げ捨て、両の手を上げヘビの前に身を投げ出しました。
むぅ、と首をひねったヘビは、しばらく考えた後に白龍をひと飲みにしてしまいました。

「白りゅうぅぅぅぅぅぅぅ。」

白龍を飲み込んだヘビは、元意も飲み込もうと首を向けましたが、急に苦しそうにのたうち回りました。巨体をバタバタとのたうち回らせながら木の幹に体を打ち付けています。
やがて、ヘビが鎌首をもたげながら口からドロドロの液体を吐き出しました。血が混じっているのでしょうか、赤黒く染まっています。尻尾をバタバタとさせながら、呻き声を上げています。首のあたりからウロコがボロボロとはがれはじめ、顔が人のようになりました。

「白龍が、勝ったのだ。」

ヘビに飲まれた白龍は、ヘビと一体となりヘビ神になってしまいました。

「これまでだ。」

元意上人は、振り返ることもなく猿のようにその場を離れました。悪に心を奪われてしまった白龍は、もはや昔のライバルでも、心許せる存在でもない。元意上人は心に開いた穴を埋めることはもはやできない覚悟を決めたのです。

後に、この村はヘビによって食い尽くされ消えてしまったそうです。
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