太釈さんの法話なブログ 生け花タクシー その2

太釈さんの法話なブログ

高野山の布教師 太釈さんがミニ法話を綴ります

生け花タクシー その2

さて、生け花タクシーの評判はというと

生け花を見ながら年配の男性が言います。
「死んだ婆さんが、この花を好きだったんだよ。お供えしなくちゃなあ。」

働き盛りの男性がぼそり。
「最近つらいことばかりでね。でも花を見ているとそれで良いんだという気になってくるから不思議だな。元気もらっちゃったよ。」

若い20代のカップル
「これ、ほんもの?」

花は人の心を開き、口も開かせるようです。


ある日のこと。

ネオン街で乗ってきたお客さん。一見してその道の方と分かりました。
「ちょっとそこまでやってくれや。」
年の頃は30代半ば。組の看板を背負ってバリバリの売り出し中。

その日はネコヤナギを生けていました。
バックミラーでチラリと見ると、感慨深そうに生け花を見ています。
「オレがガキの頃、川に魚を捕りに行ったもんだ。河原にこの花が咲いていてよお。懐かしいなあ。今じゃオレは鼻つまみもんだけどよお。花はかわらねえよなあ。」
目尻に光るものが見えました。

「田舎には帰らないんですか?」
肩越しにたずねる生け花タクシーのドライバー。
「かたぎじゃなきゃ帰れねえよ。田舎だからな。」
「気にせず帰ったらいいじゃないですか。」
「そうはいかないよ。世間は冷たいのさ。」

「お里には、ご両親は?」
「年老いた母親が入院しててよ。かたぎじゃねえから会いにも行くけねえ。」
「会いに行けばいいじゃないですか。何もいらないですよ。ミラー越しにあなたの笑顔を拝見しました。それだけでいいじゃないですか。それを持って行けばいいんです。」

静かな沈黙が続きました。やがてすすり泣く音。
降りる時に一言。「花をよろしくな。」
後ろ姿は、組のバリバリ売り出し中でした。


『花の微笑み 根の祈り』という言葉があります。
花は誰に対しても分け隔てすることなく微笑みを返します。その一方で、地面の下では少しずつ根を伸ばしています。微笑みの裏に、深い祈りがあります。
ある日突然花は咲きません。根を伸ばす見えない努力をしているからこそ、花は微笑むことができるのです。

本当の優しさは「祈り」から生まれます。大切にしたいものです。
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